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置場

妄想文を思いつくままに書き散らしています。更新頻度は低めの予定です。

2024.09.21
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2007.07.30

「地球へ・・・」
17話のショックをなんとか埋めようと書きました。
明るくしたかったはずなのですが実際は暗めかもしれません。













 幸せな夢を



 いつからそうしていただろう。自分はどこか知らない公園に一人きりで、周りには誰もいない。不安になって誰かを呼ぼうとして、誰の名前も思い出せないことに気付いた。
 自分は誰なんだ?考えても考えても分からない。靄のかかったようにはっきりしない自分の記憶と呼応するように、薄闇のかかった公園はその暗さを増していく。そこへ。 

 ――ママはいないの? 

 突然現れたのは、自分と同じくらいの子ども。 

 ――いないよ。 

 ――どこいったの? 

 ――わからない。もうずっといないから。 

 そう、ずっといないのだ。不思議にそれは憶えていた。
 ふうんといった子どもが、くい、と袖をひっぱる。 

 ――ぼくもいまママがいないんだ。ね、あそぼうよ。 

 ――ほら、あっちにボールがあるんだ。 

 相手は手をつかんで、こちらの返事も聞かずに駆け出した。コンクリートの道が急に濡れてぬかるんだ地面へと変わり、危うく足を取られそうになりながら、相手に合わせて走り出す。彼が行き過ぎると、それまでの暗闇は途端に明るくなっていった。あまりに眩しくて、目が開けられないほどに。


 それからは、ボールを蹴ったり噴水で水をはねさせたりして遊んだ。暗かったはずの公園は今はもう明るいばかりで、泥のはねた自分たちの姿が互いの目によく映った。きゃっきゃっと騒ぐ自分たち以外には人の気配のなかったそこに、ふいに誰かの声が紛れ込んできた。
 あれは自分をよんでいる、と分かった。誰かは分からないけれど、それは確かに懐かしい声。 

 ――よんでる。いかなきゃ。 

 名残惜しいながらもそう言うと、相手はそれまでの笑顔を急速にしぼませ、悲しげな顔をしてみせた。 

 ――いっちゃうの? 

 ――うん。ごめんね。ずっとここにいたいけど、だめみたいだ。 

 ますます悲しそうにうつむく相手をみて、どうしよう、どうしようと焦る。そうするうちにも、声は途切れず自分を呼び続けている。 

「1つだけ、聞いてもいいですか」 

「ああ、いいよ」 

 いつのまにか十ほど年を重ねた彼にたずねられる。応じる自分の姿も変わっていて、これが本来の自分の姿だったのだと思い出す。 

「幸せでしたか?」 

 そうたずねる彼の顔は、今にも泣き出しそうなものだった。 

「あなたは幸せでしたか…?ずっと一人で頑張って、守って」 


 たった一人で。 


「幸せでしたか」 

 ポロ、とエメラルドのような瞳から涙が溢れだしてくる。こぼれ落ちるそれを指先ですくいとり、両の手で頬を包み込む。 

「幸せだよ。住む場所があって、愛する仲間がいて」 

 それだけで僕は、ずっとずっと幸せだった。
 目を見張り、大粒の涙を流す彼の喉がひくりと動く。 

「僕はあなたを――守りたかった」 

 守りたかったんだ。 

 ふたたびうつむいた彼に何か答えようとする前に、体がふわりと浮上する感覚をおぼえた。 
 待ってくれ。行く前に、彼に言葉をかけてやりたいのに。

 泣かないで、――




「ソルジャー」
 目覚めると、そこはいつもの自分のベッド。脇には心配そうなフィシスの姿がある。身を起こし、軽く首をふって眠気を飛ばす。
 ミュウの救出で予想外に手間取り、なんとか遂行したものの戻ってからの記憶がない。あれからずっと眠り込んでいたのだろう。
「どのくらい眠っていた?」
「戻っていらしてから今日で2日、ずっとお休みになっていました」
 そっと頬に触れる彼女の手に、夢の記憶がよみがえる。
「夢を見ていたよ」
「まあ、どのような?」
 彼女の手の上から自身のそれをそっと重ねる。
「とても楽しい夢だったよ。話したいけどやめておこう」
「なぜです?」
「夢の内容を誰かに話すと、現実には叶わなくなってしまうそうだから。そうなると残念だ」
 まあ、とフィシスが笑みをこぼす。
「そんなに素敵な夢でしたら確かに誰にも言ってはいけませんね、ソルジャー」
 そう、誰にも言わない。僕のために泣いていた、名前も知らない――けれど確かに知っているはずの彼に、もう一度会いたいと思うから。 

 ゆらりと視界がぶれる。また眠気が襲ってきたようだ。
「すまないフィシス。もう少し眠るよ」
 言うと同時に意識の途切れた彼に、フィシスはシーツをかけ直しながら微笑みかけた。
「ゆっくりお休みください。ソルジャー・ブルー」


 良い夢を。

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