置場
妄想文を思いつくままに書き散らしています。更新頻度は低めの予定です。
2007.07.30
「地球へ・・・」
17話のショックをなんとか埋めようと書きました。
明るくしたかったはずなのですが実際は暗めかもしれません。
幸せな夢を
いつからそうしていただろう。自分はどこか知らない公園に一人きりで、周りには誰もいない。不安になって誰かを呼ぼうとして、誰の名前も思い出せないことに気付いた。
自分は誰なんだ?考えても考えても分からない。靄のかかったようにはっきりしない自分の記憶と呼応するように、薄闇のかかった公園はその暗さを増していく。そこへ。
――ママはいないの?
突然現れたのは、自分と同じくらいの子ども。
――いないよ。
――どこいったの?
――わからない。もうずっといないから。
そう、ずっといないのだ。不思議にそれは憶えていた。
ふうんといった子どもが、くい、と袖をひっぱる。
――ぼくもいまママがいないんだ。ね、あそぼうよ。
――ほら、あっちにボールがあるんだ。
相手は手をつかんで、こちらの返事も聞かずに駆け出した。コンクリートの道が急に濡れてぬかるんだ地面へと変わり、危うく足を取られそうになりながら、相手に合わせて走り出す。彼が行き過ぎると、それまでの暗闇は途端に明るくなっていった。あまりに眩しくて、目が開けられないほどに。
それからは、ボールを蹴ったり噴水で水をはねさせたりして遊んだ。暗かったはずの公園は今はもう明るいばかりで、泥のはねた自分たちの姿が互いの目によく映った。きゃっきゃっと騒ぐ自分たち以外には人の気配のなかったそこに、ふいに誰かの声が紛れ込んできた。
あれは自分をよんでいる、と分かった。誰かは分からないけれど、それは確かに懐かしい声。
――よんでる。いかなきゃ。
名残惜しいながらもそう言うと、相手はそれまでの笑顔を急速にしぼませ、悲しげな顔をしてみせた。
――いっちゃうの?
――うん。ごめんね。ずっとここにいたいけど、だめみたいだ。
ますます悲しそうにうつむく相手をみて、どうしよう、どうしようと焦る。そうするうちにも、声は途切れず自分を呼び続けている。
「1つだけ、聞いてもいいですか」
「ああ、いいよ」
いつのまにか十ほど年を重ねた彼にたずねられる。応じる自分の姿も変わっていて、これが本来の自分の姿だったのだと思い出す。
「幸せでしたか?」
そうたずねる彼の顔は、今にも泣き出しそうなものだった。
「あなたは幸せでしたか…?ずっと一人で頑張って、守って」
たった一人で。
「幸せでしたか」
ポロ、とエメラルドのような瞳から涙が溢れだしてくる。こぼれ落ちるそれを指先ですくいとり、両の手で頬を包み込む。
「幸せだよ。住む場所があって、愛する仲間がいて」
それだけで僕は、ずっとずっと幸せだった。
目を見張り、大粒の涙を流す彼の喉がひくりと動く。
「僕はあなたを――守りたかった」
守りたかったんだ。
ふたたびうつむいた彼に何か答えようとする前に、体がふわりと浮上する感覚をおぼえた。
待ってくれ。行く前に、彼に言葉をかけてやりたいのに。
泣かないで、――
「ソルジャー」
目覚めると、そこはいつもの自分のベッド。脇には心配そうなフィシスの姿がある。身を起こし、軽く首をふって眠気を飛ばす。
ミュウの救出で予想外に手間取り、なんとか遂行したものの戻ってからの記憶がない。あれからずっと眠り込んでいたのだろう。
「どのくらい眠っていた?」
「戻っていらしてから今日で2日、ずっとお休みになっていました」
そっと頬に触れる彼女の手に、夢の記憶がよみがえる。
「夢を見ていたよ」
「まあ、どのような?」
彼女の手の上から自身のそれをそっと重ねる。
「とても楽しい夢だったよ。話したいけどやめておこう」
「なぜです?」
「夢の内容を誰かに話すと、現実には叶わなくなってしまうそうだから。そうなると残念だ」
まあ、とフィシスが笑みをこぼす。
「そんなに素敵な夢でしたら確かに誰にも言ってはいけませんね、ソルジャー」
そう、誰にも言わない。僕のために泣いていた、名前も知らない――けれど確かに知っているはずの彼に、もう一度会いたいと思うから。
ゆらりと視界がぶれる。また眠気が襲ってきたようだ。
「すまないフィシス。もう少し眠るよ」
言うと同時に意識の途切れた彼に、フィシスはシーツをかけ直しながら微笑みかけた。
「ゆっくりお休みください。ソルジャー・ブルー」
良い夢を。
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