置場
妄想文を思いつくままに書き散らしています。更新頻度は低めの予定です。
2007.07.01
「地球へ・・・」キースとサムのステーション時代の話で気持ち原作より。
勝手な設定が混入されています。
光
「よっ、キース」
そんな声とともに背後から背中を勢いよく叩かれ、一瞬息が止まりそうに感じる。振り返った先にいた予想通りの人物に咎める視線を送るが、彼は悪い悪い、と悪びれることなく言ってのけた。
人通りの少ない時間帯なため、通路には彼らの他誰もいない。静かな“夜”だ。
「あ″~~″、今日も疲れたなあ」
「ずいぶんしごかれたようだな」
深々と伸びをする彼を見ながら、今日たまたま見た彼らの訓練風景を思い浮かべる。
いや、たまたまと言っては嘘になる。見かけたのではなくその気を持って見せられたのだから。
「ああいうキッついのは俺みたいな劣等生にゃあ辛いぜ」
「そうか?サムは実践の方が向いていると思うな」
見せられた映像の中の彼は、講義室で縮こまって講義を受けているときよりもよほど生き生きして見えた。
「まあ体を動かすのは嫌いじゃないし…てお前、そこまで見てたのかよ」
いったいどこから、と純粋な疑問のみが浮かぶ視線に、不意を撃たれて喋りそうになった自分にキースは驚いた。まさかエリート候補のみ他の者たちとは区別され、その訓練の一部始終を観察させられるなんて悪趣味なことを彼に言う気はさらさら無い。そもそもそれは厳重な注意をもって止められているということを除いてもだ。
「まあな」
不十分に過ぎる言葉だが、彼がそう言えば後はもう何も話す気はないのだということをサムは短くはない付き合いの中でとうに承知している。ふーん、と相槌をうったきり、言葉を控えた。
――君たちは将来エリートになりうる優秀な人材だ。君たちはもう今から、上へ立つ者としての自覚を強く持たなければならない。
――上へ立つ者として最も重要なことは何か。頭脳?威厳?タフな精神?ああ、確かにどれも欠けてはならない大事な要素だ。けれど違う、君たちが何よりおぼえなければならないのは下の者の扱いだ。部下を駒として有効に扱えてこそ、君たちは真に優秀なメンバーズ・エリートたりうる。
――そこで君たちにはこれから、君たちより数段劣る他の学生たちの訓練の様子を見てもらおう。まったく彼らはひどいものだが、それでも上司の腕次第では、それなりに使える人材になるものなのだよ。今日は手始めに、ある訓練の様子を見て、自分だったらその中でどう腕をふるうか考えてくれたまえ。
エリート候補生として新たに組まれたカリキュラムは、そんな具合だった。皆が好き勝手に意見を戦わせる中、キースも積極的に参戦していった。画面に映るサムが、時折ちらりと目の端に映った。
今、大あくびをこぼしながら隣を歩く友。課題自体は、悪趣味と思いつつも受け入れられたのにも関わらず、
画面の中の彼を「駒」だと思うことには違和感が疼いた。
――自分はいつか、彼のことも駒だと思うようになるのだろうか。
足が止まった。
しばしそのまま先を行っていたサムも、10mほど歩いたところでさすがに隣を歩いていた者の不在に気付き、
急いで引き返す。
「おいおい、何道の真ん中で突っ立てんだよ。行こうぜ」
促され頷くも、やはりキースの足は前へ進まない。
「キース、お前…」
心配そうなサムの顔が近寄る。間近なその気配で、はっと気を取り直す。
「悪い、少し立ちくらみがしたんだ」
「立ちくらみぃ?お前が?」
珍しいこともあるもんだ、と興味深げな表情をあらわにしながらこちらを覗き込むサムの姿に苦笑する。
「僕だって人間だ。それぐらい起こすこともあるさ」
ますます珍しいその台詞に目を丸くしながら、サムはまあ良かったと言いながら背中をバンバン叩いてくる。少々――いや、かなり痛い。
「おい」
「いやー、お前がそんなこと言うとギャップがあって相当おかしいよなあ」
ははは、と快活に笑う彼の姿を見つめ直す。ああ、どうやら廊下の光量調節がすこし狂っているらしい。
目を眇めなければ、まぶしくて彼の姿が捉えられない。
このコンビが好きなもので、すごく楽しく書いてしまいました。
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