置場
妄想文を思いつくままに書き散らしています。更新頻度は低めの予定です。
「地球へ・・・」ソルジャー・ブルーと長老たち。 ギャグのつもりでしたがあまりはじけていません。
まだ皆さん100歳を越したばかりの若造(…)のイメージで書きました。長老たちの面子からいくと原作よりのはずです。タイトルが大げさすぎますね。一度やってみたくて…
2日より書き始めてようやく上がりです。
ソルジャー・ブルーの容貌・及びそれがもたらす周囲への影響についての一考察
誰が言う…私は嫌ですよ…わしだってそんなこと…
「何の相談事だい?落ち着かないな」
「ソルジャー!」
ざわめく場に現れたのは、今まさに噂の的となっていた人物だった。その彼がどこかそわそわとした雰囲気の長老らを見回しながら問い掛けてみても、返ってくるのはいえ、はあ、何でも…などと要領を得ない答えばかりだ。長老らの思考はぴったりと閉じられていて、生半可なミュウではその中身を読み取ることはできないだろう。
もちろんソルジャー・ブルーは例外だが、彼は仲間が隠そうとすることを無理矢理読み取ろうとするような悪趣味な人物ではない。
ただじっと相手を眺めていると、ハーレイが観念したように前へ出た。
「ソルジャー・ブルー、お話があります」
「なんだい、ハーレイ」
落ち着いた声音で返しながら、そばへ寄ってきたハーレイへひたと視線を合わせる。清冽なその少年然とした美しさは昔から少しの衰えも見せない。どころか、内面の老成と合わさってますます磨きがかかり、外見と内面のそのアンバランスさはなんとも表現しがたい魅力があった。
しかしそれこそが曲者なのだ――これからの自分の任務を思い、ハーレイはゆっくりと息を吐く。
「実はあなたの…外見についてのお話なのです。ソルジャー」
「僕の外見?」
どういうことだい、と先を促すソルジャーはいつものように揺るがぬ涼やかな声音で、その分よけいにハーレイは自身が話さなければならない事柄の下らなさを思い、逃避したくなってきた。後ろの連中のぐいぐいと押してくるような思念の圧力が憎らしい。
「…あなたは素晴らしい方です、ソルジャー。我々など束になっても適わないほどに」
「ほめ言葉は嬉しいけど、それは買いかぶりすぎじゃないかい」
「いえ、そんなことはありません。現にこの船の中にはあなたを慕うものが数多くいます。皆あなたに心酔し、その身をささげてもいいとまで思いつめている者も大勢いる」
「熱烈だね」
ククッ、と小鳥のように喉を鳴らしながら、ソルジャー・ブルーはさらりと流してしまうつもりのようである。
しかしそれでは困るのだ。ハーレイは意を決して、
「ソルジャー、あなたのその姿も彼らの心酔の一因であると我々は考えているのです。あなたが少年の姿であることで彼らはあなたをより身近な存在だと、手の届く存在だと錯覚して、その――強い思慕の念を抱いてしまうのではないかと」
何より、その強い精神とそれに見合わぬ不安定な少年の姿というギャップは、心震わすほどに魅力的なのだから――ということはさすがに口にすることが憚られたので胸に仕舞うだけに留める。
「思慕の念というのは悪いものではないと思うが」
「普通ならそうですが、この場合は別です。彼らがあなたに向ける想いは“ソルジャー”に向けるにふさわしいものではない」
背後から長老たちの思念がガヤガヤと飛んでくる。直接的に言いすぎじゃないのか、もっと遠回しに、などなど。
(それならどう言えというんだ)
お気に召さないのならご自分でどうぞ、と丁寧に返してやると、皆不満気に押し黙った。
「ですから、外見の年齢をもっと上げてはもらえないものかと」
皆を惑わせないために。
「なるほど」
ふむ、と腕を組み、しばし彼は黙り込んだ。こんなふうに何か考え事をしているときの彼は、近寄りがたさを感じさせると共に見惚れるほど美しいが、本人はそれを自覚しているのかどうか怪しいものだ。今も彼は前置きなくついと顔を上げ、うっかり惚けていたハーレイを慌てさせたが、それを表に出さないだけの経験値も積んできた賢明なる船長は表面はいつも通りの表情をこしらえて彼の言葉を聞く。
仕方ないだろう。 そう言ってふう、とため息を落とす姿はまだ完全には納得がいき難い様子だが、とりあえず了解はしてもらえたようである。
「ありがとうございます」
「いや」
応じながらふと、彼は頤に軽く指先を置き、またも何事か考え込む風情である。どうしましたかとたずねかけたところで、
「それならどれくらいの姿が都合がいいか、今試してみようか」
見ていてくれ、と言い終えるより先にソルジャー・ブルーの姿が変貌した。そう、それは正に変貌というにふさわしい変わり様だった。
――背後でエラ女史が息を呑むのが感じとれた。口を大きく開けているのはゼル機関長だろうか。
ああ、自分も彼らと同じだ、とハーレイは自覚する。
ソルジャー・ブルーは、20代後半と見てとれる姿になっていた。成長した体はそれでも幾分華奢だが、身にまとう風格で頼りなさを微塵も感じさせない。
「本当にここまで外見を変えるとすればいくらか時間が必要だが、とりあえずはこんな具合だ」
どうだい、と尋ねてくる声は普段よりも低く、普段とはまた違った心地良さがある。確かにソルジャー・ブルーが成長した姿なのだということは一目瞭然だが、普段の彼とは違うのだということもまた、一目瞭然であった。少年らしさが排除された姿は細部まで少年期の面影を確かに残しながらも、少年のそれとは異なる部位だという印象を崩せぬ安定感をもって存在している。そして、最も重要なこととに彼は、少年の姿のときにはありえなかった、その姿だからこそ出るのであろう艶を持っている。皆へ向ける目は光を受けて思わせぶりにきらめき、正視することへのためらいさえ感じさせられる。
要するに、”大人”の姿になった彼は――やはりすばらしく魅力的なのだ。
これはまずい、とその場にいた誰もが思った。これでは当初の目的、「ソルジャーへ不埒な想いを抱く輩の排除」など達成できるわけがない。
黙りこくってしまった彼らを見て、彼は首を傾げた。そんな姿もまた、抗い難く惹き付けられる。
「お気に召さなかったかい?それならこれでどうだろう」
そう言って止める間もなく彼は、先よりさらに十ほど年を重ねた姿へと変貌した。思慮深い彼の性質がよく表れた姿だ。
「この辺りが体力を有効に発揮できる年齢の限界点なんだが、どうだろう」
たずねる声は深く、包み込むようなやわらかさである。溢れんばかりの包容力を感じさせる彼は、文句なしの貫禄を持ちながらも誰もがふらふらと寄っていきかねない色気を惜しみなく外へ放っている。目尻に薄く寄った皺さえも、悩ましく美しい彼の姿を強調する手段となってしまっている。この場にいたのが年齢にふさわしい思慮深さを身に付けた長老陣で幸いだったといえるだろう。彼に想いを寄せる若者たちがいたらば、どうなっていたか想像するだに恐ろしい。
エラはとうとう顔をうつむけてしまう。そうでもしないと、この先あの美しい彼に対して自分が馬鹿なことをしてしまうのではと恐れたからだ。そうすることも出来なかった者たちは、空いた口を元通り防ぐことに意識を注ぐなどして必死に理性を保つ努力をしている。
「エラ?」
どうしたんだい、とうつむく彼女にその元凶であるところのソルジャー・ブルーが近付く。反射的に顔を上げたエラは、間近に迫る彼を見て大いに動揺する。朱に染まった顔は、今度は逆に蒼白になった。ソルジャー・ブルーはその美しく弧を描く眉をひそめ、大変だ、と呟く。
「気分が悪いんだね。大丈夫かい?さあ」
「え――ソ、ソルジャー!」
言うなり彼女を抱き上げたソルジャー・ブルーに、抱えられた本人ばかりでなく周囲も大いに湧き立った。
「ソ、ソルジャー!何をなさっておるんですか」
必死な声を上げたのはゼルである。
「医務室に連れていくだけだよ。歩くのも辛いだろうから」
「いえ、私はそんな――」
抱えられた彼女がようやっとなにか口にしかけても、麗しのソルジャーを前にして、言葉は意味をなす前に宙に消えてしまう。
「落ちないように、しっかり捕まって」
「はい…」
頼もしく女史を運ぶソルジャー・ブルーと、ポーッとしながらその首に恐る恐る手をまわす女史が徐々に遠ざかっていく。
「…ハーレイ」
「…何でしょう、ゼル機関長」
「年を増すごとに、より惑わされるのはどういうわけだ」
「分かりません。ですが」
――ソルジャー・ブルーだから、ということなのかもしれません。
「ああ…そうかもしれんな」
その後、長老たちからのソルジャー・ブルーへの要請は立ち消えになったという。
この計画が残したものといえば、不運にも彼の人の貴重な姿を目にすることとなった若きドクターの大いなる葛藤と苦悩のみであった。