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置場

妄想文を思いつくままに書き散らしています。更新頻度は低めの予定です。

2024.09.21
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2007.06.10

「地球へ・・・」
アニメ10話「逃れの星」がショックだったので慰めに書きました。









 深き底


 頬にそっと手を当てる。すると訪れるひんやりとした感触にドキリとするが、同時に感じた微かな脈動にほっと息をつく。そのままにしていると、その緩やかな体温が徐々に指先へと伝わってくる。

 彼の人が眠りについてからもうどれだけの月日が経っただろう。
 初めはまだ意識があった。少しずつ長くなっていく、彼が目覚めるまでの感覚に気が狂いそうに悶えながらも、それでも彼の思念、声を感じることができたあのころが今は遠い。
 静かに揺らがぬ寝顔はただ美しく。見つめ続けていると、その美しさと希薄な生命感があいまってそこに在るのは彫刻か何かの芸術品のような錯覚に襲われ、彼が人であることを忘れてしまいそうだ。
 彼が「生きている」のだと確信できるのは、その身体に触れ、彼の呼吸、彼の温度、彼の血を感じるときだけ。しかし、そうして彼に触れることは滅多にない。手を伸ばしはしてみても、指先は寸前で惑い、元の場所に収められるだけに留まる。今のように意を決して触れてみれば、さほどの抵抗も後悔も生まれることはないのだが。
 ――防御壁が張られているわけでもあるまいに。
 己の滑稽さに笑い出したくなるが、実際はこれっぽちも笑えるような気分ではなかった。
 彼の側にいるときはいつもそうだ。自分の愚かしさ、無様さを痛烈に自覚し、絶望的な気持ちになる。彼は何も言わず何もしないというのに。――いや、その表現は適切ではない。
 彼は何も言えないし何もできないのだ。他ならぬ、僕のせいで!
 静寂が身にまとわりつくその部屋を訪れるたび突きつけられる事実に、言い様もない苦しみが沸き立ってくる。払っても払っても振り切れぬそれは、どれほどの時が経とうとも磨耗することはなく、自身を途方もない自責の念に陥らせる。それでも部屋を訪れることは止める気はない。ここには、そうした己の苦悩の元であり、同時に己が決して手を離すことなどできるはずもない、彼がいるのだから。
 頬の手をゆっくりと遠ざけていく。そうすると、かつて自分の手があったはずのそこは何の痕跡も見せず、ただ彼だけで完成した世界がある。

 

 皆が僕のことをソルジャーと呼ぶのが当たり前になってきた。僕に反発していた者でさえ。
 重要事項は、何よりまず僕に伝えられる。
 決定事項を、あなたまで伝えることが減った。
 皆、だんだんとあなたの名前を口にしなくなった。


 そうして少しずつ、ぼやけ失われていく。

 あなたはここにいるのに!・・・・・・・・・・・・

 たまらなくなり、上体を傾けて眠る彼の人の横に顔を埋める。すると、さらさらとした髪が耳朶をかすめた。隣に目を向ければ、彫刻のような顔がほんの一、二寸先にあることだろう。
 目覚めることを忘れてしまったあなたの姿が。

「目を…目を開けてください」


 僕はあなたを
 
 忘れたくないんだ

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