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妄想文を思いつくままに書き散らしています。更新頻度は低めの予定です。

2024.11.23
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2007.12.22

自覚の4話目はジョミー13歳のある日の出来事。長めです。
これで「自覚」は終わりです。今年中に書けてよかったー。
タイトルはもちろん…の自覚を意味していますが、予定外に後継者としての自覚の芽生えも書けたので複数の意味合いを持たせられたかなと思っています。
実は発覚から一連のこの親子話、シリーズ名も考えていたんです。その名も「Johmmy Johmmy ~死ぬほど恋して~」。
…元ネタ分かる方、いらっしゃいますかね?
まあこれだとギャグにしか見えん(あと綴りの正確さに自信がない)ということでお蔵入りになりましたが、一時は本気でタイトル名につけるところでした。いや、元ネタの曲自体はギャグでもないんですが。

女性ブルーでジョミーと親子話です。ご注意ください。
















 自覚 4


「好きなの」
 告げる少女の肩は震え、表情は、思いつめたという表現がぴったりなものだった。
「私と、付き合ってくれる?」
「え、と……」
 そんなことを言われても、ジョミーはまったくの想定外の事態に当惑するばかりで、よい断りの文句が浮かばない。
 そう、異性の気になり始める年頃に差し掛かった少年が可愛らしい少女に告白されるという、本来なら断る要素なんてありそうもない現在の状況で、彼はそれを喜ぶよりも、厄介に思う気持ちが何より先立っていたのだ。
 冴えない言葉尻からそれを察したのだろう、少女は下を向いて泣きそうな声を上げた。
「迷惑だった…?」
「いや、違うよ!そんなこと思ってない」
 慌てて否定すれば、顔を上げた少女の顔は涙まじりになっているので、申し訳なさに胸がチクリと痛む。
「じゃあどうして?」
 どうしてと言われても。
 彼女が、みんなで女も男も関係なく遊んでいた子どものころからの幼馴染みであることや、つい最近他の幼馴染みの一人が彼女について最近可愛くなったなんて言っていたことなど、理由なんてそれこそ様々だけど、これと言えるほどハッキリした理由なんて一つも思い当たらない。
 思えば、授業の後に彼女が他の者の目につかないように人気のない場所に呼び出したことで、何か察せられるところは存分にあったのにそんなことには何も気付けなかった。それだけじゃない。近頃顔を合わせるたびにぎこちなく視線をそらされていたことや、その割に時たま何か訴えかけるような思念の余波を感じたことなど、兆候は考えてみれば多々あったのだ。気付かなかったのは、自分がただ愚かであったがゆえだろう。
「好きな人、いるの?」
 まさかと答えようとしたところで、ふと頭の中を何かが風のように横切っていった。姿をとらえる前にすり抜けていったそれは、白い残像しか残さなかったけれど。その瞬間に、意思は明確に定まった。
「ごめん、付き合えない」
 キッパリ言い切れば、ハッと目を見張らせた少女の眦にはどんどん涙が溜っていった。
「な、泣かないで」
 慌てるジョミーが為す術もなく、溜った涙は溢れ、下を向いた彼女の頬を次々と流れ落ちていく。
「……して」
「え?」
 涙で掠れた声は聞き取りづらく、ジョミーは顔を寄せて聞き返した。
「もう一回言ってく――ッ」
 バッ、と思いきり身を引くと、至近距離まで近付いた彼女の顔はまたも歪んだ。
「何するんだよ?!」
 思わず荒くなった声に相手の体は震えたけれど、唇を奪われかかるという予想外の事態に動揺するジョミーにはそんなことに構っていられる余裕はない。己の反射神経に感謝し、胸に手を当てながら問いただした。すると伏せた顔を上げた彼女は、先ほどとは打って変わって静かな表情を浮かべている。
「諦めるからキスさせてほしかったの。いいでしょ?」
「そんな…」
「お願い」
 再び迫りくる彼女の、底知れぬ威圧感に押され、絶句したジョミーはジリジリと後退る。が、その距離はどんどん狭まるばかりで。
「おや」
 間一髪のところで聞こえた声に両者が振り返れば、そこには長い髪をなびかせた。
「ソルジャー・ブルー!」
「あっ……」
 彼らは慌てて体を引き離し、姿勢を正して彼女へと向き直った。
「盛り上がるのもいいけれど」
 こんな状況だというのに、彼女はまったく動揺する様子がない。そのことに、なぜかジョミーの胸は軋むように痛んだ。
「ここはいつ人が来るか分からないよ。場所を移した方がいい」
 淡々と、まるで平常通りのソルジャーの様子に、却って恥ずかしさはいや増した。それに、多忙なソルジャー・ブルーと接触する機会は一般のミュウには少なく、その上最近の彼女は皆の前に姿を現すことがとみに少なくなっているのだ。次代のソルジャー候補で、彼女と会う機会も多いジョミーはともかく、そうでない少女の緊張と恥じらいは相当のもので、体は先の比でなく震え、握り込んだ手は血の気を失い白くなっているのが見てとれた。
「あ…し、失礼しました!」
 深く頭を下げたまま、少女は真っ赤に染まった顔を隠すようにして駆け出していった。それを見送るジョミーは、どうするべきか判じかね、その場に留まったままである。
 ソルジャと目を合わせるのが、なぜだろう――怖かった。しかし。
「ジョミー」
 いつものように呼び掛けられ、反射的に振り向く。
「今日は訓練に出られそうかい?」
 声も出せず、失礼と知りながら無言で頷くと、よかったと彼女は微笑んだ。
「もうすぐ昼食だろう、早く行きなさい。2時間後に部屋へおいで」
 ひたすら頷くことしかできないジョミーにそれだけ言うと、彼女は颯爽とした歩みで去っていった。



 ハア、と深いため息が留めきれずに洩れる。
「おい、うるさい」
「あんまりな言葉だな…」
「ずっと隣でため息吐かれてみろ。心配する気も失せるってもんだ」
「なあ」
 うんうんと頷き合う友人たちの姿に、ジョミーは世の無情を思い嘆いた――わけもなく。
「何て冷たい連中だ!」
 八つ当たりと知りながらわめくジョミーを尻目に、ちょっと、と一人が手招きするのに従って、友人達は周囲のテーブルに洩れ聞こえないよう身を寄せ合ってヒソヒソ話の態勢に入った。
「あのさ、誰かいいなって思うのって、いる?」
「またその話かよ。好きだなあ」
 降ってくる呆れ声に対抗し、違う!と彼は言った。
「前のは誰が一番可愛いか、だろ!僕が今言ってるのはいいなと思う子は誰かってことだ」
「大差ない気もするけど」
「僕はやっぱり――かなあ」
「お前それ前のときも言ってたよな…ま、確かに可愛いけど」
 友人達の間で出てきた名前は、先ほどジョミーが告白を受け、おまけにキスまで迫られた相手だったので、彼はぎくりと身を強ばらせた。
「あれ、そういえばいないね。授業のときはいたのに」
 そう言って少年はキョロキョロと周囲を見渡すので、ジョミーは無意味に慌て、食器を取り落としかけた。
「うわっ、何してるんだよ」
 驚く声音に、何でもない、とうつむきながら答える声は力ない。
「でもあの子、どっちかっていうとジョミーに気がありそうに見えるぜ」
 ひょい、とまた、別の連中が身を乗り出してくる。
「ええ?!何でさ、キム」
「何となくだけどよ」
 ますますいづらくなり、下を向きながら食事を片付けることに集中するジョミーに、鼻息の荒い友人の顔がぐぐっ、と近付いてきた。
「ジョミー、お前はどうなんだ?!」
「どうなんだって、何がさ?」
「お前はあの子をどう思ってるのかってことだよ!」
「どうって言われても……」
 告白のときのことを思い出し、我知らず冷や汗が流れ出たそのとき。
『ジョミー』
 蘇ってたきたのは、ソルジャー・ブルーの姿だった。
 思い返せば、あのときの彼女は以前に会ったときよりも少し痩せていたようだ。目覚めたばかりなのだろうか、と思う。
 ここ一年の間、産後の一頃を思い出させるほどに彼女が眠りにつく日は徐々に、だが確実に増えつつあった。そしてそれはジョミーにも幼いころの寂しさを思い出させ、憂鬱な気持ちにさせられた。
 体の負担になるからと訓練の日も削られ、顔を見ることがどれだけ難しくなったことか。今日会えたのもずいぶんと久しぶりだというのに、何も話すことができなかった。話したいことはたくさんあるのに。最近学び始めた帝王学の授業に辟易していることや、それでも歴史は意外に楽しく思うこと、近頃の仲間内での話題ときたら男も女も恋のことでいっぱいだということ――
「ジョミー!!」
「へ?」
 大きな声にハッとして顔を上げれば、友の顔が目前にあった。うわ、と思わず引けば、その分だけ彼の顔はずずいと寄ってくる。
「どうなんだ?ま、まさかお前もあの子のことを……」
「そんなことないよ!ただの友達としか思ってないって」
「ふーん……」
「本当だってば」
「ならいいさ。俺にもチャンスがある!」
「面白いやつだなー、お前」
 ガッツポーズを決める彼を眺めつつ、キムは腕組みの格好で感心したように呟いた。尋問から解放されたジョミーは、それでも喜びより憂いの目立つ顔で深くため息を吐いた。





 部屋の前に立ち、中にいるはずの主に呼び掛けようとしたところでしばし惑う。ハア、と零したため息は、今日幾度めのものだろうか。
 きっとソルジャー・ブルーは何も気にしていないのだろうが、顔を合わせるのは気まずい。このまま帰ってしまいたいくらいだ。でも。
 ――それでも、会いたい。
 ためらいの中浮かび上がってきたそんな単純な思いが、心を決めさせた。
『ジョミーです。ソルジャー・ブルー、いらっしゃいますか?』
『ああ、どうぞ入っておいで』
 すぐに返答があったかと思うと、体が瞬時に移動した。着いた先の、個人の部屋としては過ぎるほど広い空間に一歩足を踏み出す。
 ゆったりと広い部屋の中央、穏やかな光を放つベッドの側に彼女は佇んでいた。
「やあ、ジョミー」
 振り返る彼女はやはり少しやつれているようだったが、それでも相変わらずの美しさをその面差しに湛えていた。
「久しぶりです。ソルジャー」
「そんなに畏まらなくてもいいと言っているだろう」
 手を横できれいに揃えて直立するジョミーに、ブルーは不満げに眉を寄せた。そんな顔を見られるのはきっと自分のほかにはあまりいない。そう思うと、状況もわきまえず笑い出したくなった。
「何がおかしいんだい?」
 苦笑のにじむ声を聞いて目が惑う。表情には出さないようにしたと思うのだけど。
「君のことなら何でも分かるよ。隠していたってすぐにね」
「ッ!!読んだんですか?」
「さっきのは違うけれど、今のはね。君から勝手に流れてきたんだ」
 まだまだ修行が足りないな、と彼女が笑う。
「……そんなに分かりやすいですか、僕」
「君は顔に出やすいから。でも、それだけではないよ」
 すっと伸ばされた手が頬に添えられた。冷えたそれの感触に、治まっていた動悸が急激に高鳴り始める。
 ジョミーにとってブルーは、近づきたいけれどある一定のライン以上は進むことを制限されているような、そんな距離感を感じずにはいられない相手だった。それでも幼い頃は、子どもゆえの無邪気さでそんなものは跳ね除けてきたけれど。
 中途半端に成長してしまった今は、彼女に必要以上近づくことをためらい、しかし彼女を慕う心は幾度も彼女との接近を望んでしまう。
 そんなジレンマをどうにかしようとなるべく接触も避けていたところでこの不意打ちだ。驚いても仕方ないだろう。
 そう、仕方のないことなのだ。おかしいくらい火照る顔も、汗ばむ手も、全て。
「緊張しているようだ」
 もう片方の手も添えて両頬を包み込んできた彼女の顔が、いくらか悲しそうに見えるのは気のせいだろうか。
「そんなことありませんよ。ちょっとびっくりしただけで」
「……それならいいけれど」
 ブルーの手が、そっと外された。ほっとすると同時に、離れていったそれが少し寂しい。
「それで、それだけじゃないってどういうことですか?」
 部屋に漂う妙な雰囲気を切り替えようと、話題を仕切り直す。不可解そうな顔をしていたブルーも、彼の意図に応じて口を開いた。
「母親だから――なんて言ったら説明としては不足かな」
 そう言って、彼女はふわりと少女のように微笑むので。
(母親だなんて、思えるはずないじゃないか――)
 胸の中をよぎった思いの一瞬後には、その内容に激しく動揺した。
 何を思っているんだ、と自問する。彼女と過ごした時間は普通の親子に比べれば短いかもしれないが、彼女は決して自分のことを適当に扱ってきたわけではないし、母親として、できるだけのことをしてくれたというのに、それなのに、何てことを考えてしまったのだろう。
「ジョミー?」
 気遣わしげな声音はブルーのものだ。これまで母親として慕ってきた彼女の声。
「何でもないです」
 うつむいた彼から発せられる声の何て小さなことか。
「今日は元気がないね。告白の場面を見られたのがそんなにショックだったのかい?」
「ええ、まあ……て、はい?」
 うなずきかけたところで、固まった。
「強引に迫られているように見えたから声をかけたんだけど、余計なお世話だったかな」
 ふむ、とブルーは顎に手をかけて考え込む姿勢である。誤解だ、とジョミーは泣きたくなってきたが何とか気を取り直す。
「そんなことありません!あのときは本当に困ってましたから」
「そうか、それなら良かった。でもねジョミー、気まずいからといって今後彼女に冷たい態度をとってはいけないよ」
 何を心配してるんですか、とジョミーは頭を抱えたくなる。あんな場面を見られるなんて本当にどうしようもない失態だったと悔やむが、ブルーは告白を受けた後の対処を親切にも考えてくれるばかりだった。
「なるべく今までと同じように、さりげなく接してやるのがいいだろう。……いや、そうされるのがかえって辛いということもあるか――」
 恋愛というのはまったく難しいね、とブルーは苦笑した。
「相談を受けたこともあるけれど、これには明確な答えがあるものではないからいつも迷ってしまうよ」
 詳しいですねと言うと、とんでもない、とブルーは大いに否定しながらそんなことを言った。
 ――ソルジャー・ブルーに恋愛相談をする者なんていたのか、とそこが何よりジョミーには驚きだった。しかも、口ぶりからするに一度や二度のことではなさそうだ。自分が思うよりも、ソルジャーは身近な存在と捉えられているのかもしれない。
(……悔しいな)
 胸の中でそっと呟いたところで、矛先がこちらへ向いてきた。
「君はどうだい?好きな子はいないの?」
「い、いませんよ!」
 何で今日はこんな話題ばかりなんだ。
「そうか。つまらないな」
 ……つまらないって。
「冗談だよ」
 にこりと微笑む彼女の姿がこんなにも怪しく思えたのは初めてのことだ。
「でも本当にいないのかい?もしかして、フィシスとか」
「なんでいきなりそうなるんですか!」
「駄目かな?フィシスは優しく美しい、恋に落ちるにはこれ以上ない相手じゃないか」
 確かに彼女は美しい。けれどそんなふうに考えた事はない。そしてグッと締め付ける胸の痛みが気にかかり、彼が何より美しいと思うブルーの、募るフィシスへの賛美の半分も聞く事はできなかった。
「…それも冗談ですか?」
 賛辞を一通り聞き終えてから尋ねると、
「分かった?」
 ブルーが悪びれなく答えるのに脱力しつつも、胸は相変わらずジクジクと痛み続ける。
「ソルジャーはどうなんですか?」
「秘密だよ」
 サラリとかわされる。不満だけど、少しだけ安心した。ほんの意趣返しだったけれど、どう答えられれば満足だったのかは分からないからだ。
「さあ、そろそろ始めようか」
 背を向けて歩き始めた彼女の姿に、ふと思い立つことがあった。深く考えず、実行する。
「――ママ」
 歩みを止め、振り返ったブルーの顔の驚きに満ちたことといったら。
 それも無理ないことだろう。ブルーと二人きりで誕生日を過ごしたあの日以来、ジョミーが彼女にそう呼び掛けることはなかったのだから。
 あの日、いつもより縮まったように感じた距離は、目覚めて新しい一日が始まると再び広がってしまった。ジョミーには、そう感じられた。だからもう、『ママ』だなんて呼びたくとも呼べないと、思っていたのだけれど。
「何だい、ジョミー」
 嬉しそうに、本当に嬉しそうに彼女は笑うのだ。それは、これまで見た何より綺麗で、だからこそ何より儚いものに思えた。
 ドクドクと、鼓動がうるさく響き耳をつく。
 駄目だ。これ以上彼女のそばにいると、伝わってしまう。こんな――
「……すみませんソルジャー。気分が悪くなってしまったので、今日の訓練は――」
「君が気分が悪いだなんて珍しいね」
 心配そうなブルーの顔が、間近に迫った。額に差しのべられる冷えた指先が、熱が出たのかなと呟く唇が、こんなにも近くに。
「ドクターに診てもらってきます」
 その言葉と共に出口へと身を翻し、早足で歩いた。
 ブルーの労りの思念を感じるが、無視して退出する。
 早足のまま、向かった先は医務室ではなく自室だった。たどり着き、部屋に入ってすぐにベッドへと体を投げ出す。無音の部屋に、その音はやけに大きく響いた。
 個室でよかった、と思う。今は誰にも会わずに一人でいたい。





 ママ、と口にしたあのとき、身を襲ったのは強烈な違和感だった。幼い頃には感じなかったそれに、ジョミーは、やっぱり、と奇妙な落ち着きをもって自覚した。
 ブルーをそう呼ぶことはもうない。彼女を母と思うことは、今の自分にはできないのだ、と。
 それは罪深いことなのだろうが、これまでと何が変わるだろう、とも思う。
 きっとこれまでだってずっと、自分はブルーを母として慕いながら、女性として、愛してきたのだから。


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