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妄想文を思いつくままに書き散らしています。更新頻度は低めの予定です。

2024.09.21
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2007.12.04

「地球へ・・・」ブルーとジョミーとヒルマン
「発覚」の続きです。が、ブルーよりジョミーより、ヒルマン教授を出張らせてしまったような。
そして当サイトでは珍しいことに続き物です。本当は一気に書き上げたかったのですが、思ったよりも長くなったことと気力が尽きたことで分けました。タイトルに意味が出てくるところまでは書き上げたいと思っています。…出来るだろうか。

※ブルーが女性な上、子どもはジョミーという設定です。今はまだほのぼのですが、そのうちジョミブルになる予定です。以上を受け入れられるという方は、よろしければ続きよりどうぞ。















 自覚 1



 ふかふかの布団に包まり、心地よい音に耳を澄ませながら、満たされた眠りについていたことを憶えている。





「つかまえた!」
「きゃあ」
 きゃいきゃいと騒がしい子どもたちを、ヒルマンは少し離れた場所で見守っていた。
「ジョミーはやいよお」
「ちがうよ!みんながおそいんだ」
 ぷくりと頬を膨らませたその子どもは、同じ年頃の子どもらの中でも格段に高い身体能力の持ち主である。そしてミュウならば誰しも大なり小なり持っている体の不具合を、彼は何一つ持たない健康体として生まれてきていた。そしてそれは、今ヒルマンが子どもたちを見ている理由でもある。
 力加減のまだ分かりかねる年頃なのだ。下手をすれば他の子に怪我をさせかねない。今でこそ彼はまだ4つになったばかりで、大人であれば彼の肉体の暴走を止めるのもたやすいことだが、もう数年もすれば彼は船の中の誰よりもしなやかで強い肉体を手に入れることだろう。
(さすがソルジャーの御子だ)
 髭を撫でさすりながら一人頷き、喧騒を眺めていると、
「やあ、ヒルマン」
 声をかけられ振り向けば、長い髪をなびかせた長がすっきりとした佇まいでそこにあった。
「これはこれは。いつお目覚めになりましたか、ソルジャー」
 出産以後、彼女は体調を崩したままで、休養に大きく時間を割いている。それ以外の時間は、怠ることの出来ない自身の務めを果たすことに費やされているので、彼女の実の子どもであるジョミーや彼女の救い出した子どもたちとの接触の回数も、微々たるものでしかない。
「ついさっきだよ」
 答えた彼女の存在に目敏く気付いた子どもたちが、あ、と動きを止める。駆け寄っていきたいが、ソルジャーにそんなことをしてもよいものか、と逡巡しているのだ。
 子どもといえど、考えることは考えるものだ。思わず彼が笑めば、呼応するように微笑んだブルーはすっと歩を進め、その集団の中へと自ら入っていった。
「やあ、みんな元気かい?」
 問い掛けられ、ようやく動きを再開した彼らは、今度は逆にソルジャー、ソルジャーとうっとおしいほどまとわりついてきた。
 そして言葉を交わし、触れられることを望む。子どもの自制心は、大人のそれより崩壊しやすく、それゆえ正直なものだ。そんな中、一人遠く離れた植え込みに隠れ、見つめる者があった。視線と共に向かってくる感情は、それを読み解くことに慣れたブルーやヒルマンにダイレクトに伝わってくる。特に、感情の矛先であるブルーに、それはより強く感じられた。
 子どもたち一人一人の相手をした後、ゆっくりとその植え込みへと向かっていく。近づくたび、彼女を拒否するかのように植え込みは揺れる。けれど奥からジッと見つめる瞳は逸らされない。
「ジョミー、どうしたの」
 たどり着いた植え込みの前で膝を折り、ブルーは我が子の名を呼んだ。茂みを掻き分けた先に現れた幼子の頬は不機嫌そうに膨らまされていたが、それを意に介することなくブルーは両手で彼の顔を挟み込み、やや強引に自分の方へと向けた。
「ジョミー」
 まともに顔を突き合わせると、彼の顔はみるみるうちに真っ赤になっていった。
 食べごろのトマトみたいだ。ちらっと浮かんだ思いはもちろんおくびにも出さず、彼女はもう一度ジョミー、と呼びかけ、微笑んだ。すると、彼の顔色はそれに比べればトマトの方がまだ青い、と思えるほどの色になり。
 一瞬の後、ボスン、と胸に勢いよく飛び込んできた。
 おや、と遠くから様子を見ていたヒルマンは目を見張るが、飛び込まれた当の本人は落ち着いたもので、そのままジョミーを柔らかく抱きしめた。
「甘えっ子だね」
 クスクスと笑うその姿は、まさしく聖母のようだ。とヒルマンは心の中で称賛しながら、ソルジャーを独り占めされて不満げな子どもたちの頭によしよしと手を置いた。
「ジョミー、ジョミー、寂しかった?」
 問いに彼はふるふると首を振るが、体のあちこちが接触した先で感じるのは”会いたかった”という強烈な思い。幼児とはいえ侮れぬ力に感嘆を覚えながら、直截なそれに苦笑がこぼれる。
 会いたいけど、いざとなると緊張して顔を合わせられない。でも会いたい。
 伝わる子どもの思考に、申し訳ない気持ちが押し寄せる。
「ごめんね、なかなか会えなくて」
 そう言った途端、埋めていた顔を離し、大きな目をブルーに向けながらジョミーは口を開いた。
「あえたからいいの、うれしいもん!」
 ひたむきな瞳でこちらを見つめ、会えて嬉しいと、まだうまく操れない言葉と何より正直な心で言われると、たまらなくなった。
「そるじゃー?」
 どうしたの、と言われるほど、これまでよりずっと強い力で抱きしめると、ジョミーの驚きがより大きく耳に届く。
 ――こんなにも愛しいものがあるなんて。
 何者にも変えがたいその存在に、溢れる愛しさはやまない。

 その後は、他の子どもたちとジョミーを合流させ、彼らの様子を見守った。彼らは時にヒルマンまで巻き込み遊びを展開させたが、目覚めたばかりであるブルーがベストな体調でないことは分かるのだろう、なるべく迷惑をかけないように、と彼らなりに心を配っている様が微笑ましかった。そうして観察していると、ジョミーの活発さは他者よりも抜きん出ていることがよく分かった。彼は誰より速く走り、誰より高く跳ぶ。
 ミュウは基本的に虚弱で体力がないため、子どもたちは無理のないよう時折休憩を取る。するとまだまだ遊び足りない様子の彼は不満そうに、だが文句は言わずにみんなの充電が終わるまで待っていた。
「ジョミーには少し前まで同じ年頃の遊び相手がおりませんでしたから、最初は加減が分からず苦労もあったようです。けれど今は他の者と合わせることも覚えてきているようで、何よりです」
 ヒルマンの言葉に頷くブルーの体が、不意にゆらりと傾いだ。
「ソルジャー!」
 とっさに抱き止めた彼の腕に寄りかかりながら、ブルーはすまない、と苦笑する。
「まだ本調子ではないのでは?無茶はなさらずに」
 そんな状態のままでも真っ先にここへやってきたのは、子どもたちに――ジョミーに会いたいという気持ちが先走ったからだろう。
 そろそろ部屋に戻られては、と進言すると、ブルーは仕方がないと息を吐いた。
「すまないね、ヒルマン」
「いいえ、滅相もない。それより、どうか早くお休みになられてください」
「そうするよ。でも、ちょっと待って」
 そう言って彼女は、母の異変にいち早く駆けつけてきたジョミーへと視線を移した。体を自力で起こしながら、不安に揺れる表情を浮かべた彼に手を差し伸べると、ギュッと強く握られる。緩く握り返しながらしゃがみ込み、目線を合わせた。
「ジョミー、もう行くよ」
 ブルーの言葉に、彼の瞳は泣きそうに潤む。
「大丈夫。今度はすぐに会えるよ」
 抱き寄せて、小さな額に口付ける。途端、彼女の姿は唐突にかき消えた。
 まだそんな圧倒的な力に接した機械が少ない子どもたちは、きゃあ、すごい、と驚きの声を上げて騒ぐ。そんな中、ジョミーだけは黙り込み、ブルーのいなくなった空間を穴が空くほど見つめている。
「ジョミーはいいな」
 一通り騒いだ後に、ぽつりとそんな言葉が一人の少女から洩れた。ソルジャー・ブルーという母親がいることが、羨ましいらしい。
「いいなあ」
 今度は他の少年から。そして口にはしない他の子らも、そんな思いを抱いているのが皆、感じ取れた。そんな中で俯いたジョミーが、唐突にダダダっと走り去っていく。
「ジョミー!」
 突然のことにヒルマンは少々慌てたが、彼を一人で放っておくわけにも他の子どもたちから目を離すわけにもいかない。近くにいた者にテレパスで呼びかけて他の子どもたちの世話を頼むと、彼はとうに見えなくなったジョミーを思念を頼りに追いかける。若い頃のように全速力でというわけにはいかないが、それでも大急ぎに小走りで行くと、意外にも彼はすぐに見つかった。
「どうしたんだい?」
 廊下の柱の足元に座り込み、鼻をすすらせる彼を驚かせないように優しく声をかけると、気配に気付いていたものか、ジョミーは驚きを見せなかった。
「……そるじゃーと、もっといっしょにいたいのに」
 顔を上げて、黙って彼の言葉を聞くヒルマンを涙の滲む目で睨みつけた。
「よくないよ。いっしょにいられないなら、おんなじだ」
 きっぱりと言い切った彼に、そんな場合でもないがソルジャー・ブルーとの相似を見て、思わず口元が緩んだ。
「なんでわらうの!」
「いや、すまないね…君とソルジャーはよく似ていると、そう思ったんだよ」
「にてる…?」
 途端にそれまでの泣き顔が喜びの兆しを見せた表情に転ずる。
「ああ。大きくなったらもっと似てくるはずだ。それまでには、君とソルジャーが一緒にいられる時間も、もっとずっと増えているだろう」
「ほんとに?!」
「本当だよ。それに、ソルジャーはまたすぐに会えると言っていただろう?ソルジャーは約束は必ず守る方だから大丈夫だ」
 それを聞いて嬉しさに顔を赤くしたジョミーは、すぐさま立ち上がってまた駆け出していった。今度は仲間のいる所へ。
 あの切り替えの早さは目を見張る、と苦笑しつつ、ヒルマンは青の間へ戻ったはずのブルーへと思念を送る。
『ご覧になりましたか?』
『ああ、これはいつまでも休んでばかりはいられないようだ』
 やはり様子を窺っていたらしい彼女から返ってきたのは、笑い声まで伝わってきそうな思念だ。
『そのようですね。ですがくれぐれも無理はなさらぬよう、お願いします』
『分かっているよ。――ありがとう、ヒルマン』
 ふっと思念が途切れ、彼女が完全な眠りについた事が知れる。
 ほっとため息をつき、元の場所へと向かった。



 彼女の体調は、出産直後より大分持ち直してきている。それでも、完全に復調することはないのだ。それはもはや、どうにもならない変調であるのだから。
 ――そんなことは、認めたくない。けれど、認めなければどうにもならない。
 せめて彼女の子どもであるジョミーが充分に成長し、ソルジャーを受け継ぐまでは、と思う。それは何より彼女の望む事だから。
 聞こえてきた喧騒に安堵を覚えながら、緩みかけた涙腺をこらえた。

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