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置場

妄想文を思いつくままに書き散らしています。更新頻度は低めの予定です。

2024.09.21
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2008.01.04

新年の一発目はやっぱりジョミブル。
この話、昨年の6、7月あたりから書き始めたんですよね。しかも原型は9月頃にはもう上がっていたのに手直しが進まずこの時期になってしまったので、半年かかったという事実に伴わない中身です。
本当は去年の最後に出したかっただなんて今言っても仕方のないことです。出来なかったんだし。
珍しく原作に拠った話になっていますので、原作のネタバレを含みます。おまけにif的パラレル話です。ご注意の上、それでもよろしければ、どうぞご覧下さい。















※人類とミュウが和解したという設定にもとづく話です。


『一つ頼みがある、よろしいだろうか』

 和解は成し得たものの、人間とミュウが共存を目指す上では、住み分けや教育の改変など、様々な問題が横たわっているのが現実である。ミュウと人類は、双方が互いに目指す理想を持ちながらも、長く敵対していただけに相互理解はいまだ追いつかず、その意見は食い違うことが多かった。
 そうして連日、一歩も引かぬ激しい議論が為されるなかで、ほとんどの者が精も魂も尽き果てた様子であるにも関わらず、それぞれのトップの二人は疲弊の色をまるで見せず、涼しい顔を維持していた。そして今日も予定より大いに長引いた会議が終わったところで、いつも通り疲労は見えないながらも心なしか堅い表情で若きミュウの長は発言したのだった。
「何ですかな、ソルジャー・シン」
 年長の、見た目だけでいえばゼルと同年代といった様子の男が、眉をしかめてえらぶった口調で――本当のところはソルジャー・シンへの畏怖を込めて――問い返す。
 するとソルジャーは、そこでほんの少し間を置いた。短いそれは、彼には珍しいためらいであったが、すぐに彼はいつもの毅然とした表情と思念を取り戻したので、ソルジャーの側近以外は違和感をもつことはなかった。
『――遺体を埋葬させてはもらえないだろうか』
「遺体?」
 予想外なその言葉に議会がざわめきを見せる中、ソルジャー・シンは泰然とした態度を崩さず続ける。
『ああ。我々の先代の長の遺体だ。なるべく美しいところであればありがたいのだが』
 隣に控えていたハーレイが、ハッとしたように口の中で何事か小さく呟く。
『彼を一刻も早く下ろしてやりたい。この地球へ』
「……いいだろう。場所はこちらで用意する」
 静かだがその実たぎるような彼の想いは、明確な形ではないが思念に乗せて周囲へと響いている。それを感じとったのか、キースは嫌味も皮肉もなしに誠実に応じてみせた。そんな彼に対して、ソルジャーは初めてかもしれないまともな礼の言葉を思念で発する。
『感謝する。キース・アニアン』



「お疲れ様です、ソルジャー」
『ああ』
 鑑内に戻った若きソルジャーは、堂々と歩を進める彼に礼をする者たちを一瞥だけして、すぐに顔を正面へ戻した。
『棺を運ぶための人員が必要だ。若く力のある者を四、五人用意してくれ』
「は」
 ハーレイの心得た応答にソルジャーは軽く頷いた。
『ソルジャー・ブルーについては、僕から皆に話そう』
 そう言ってから間もなく、全員すみやかにブリッジに集合するように、と思念で呼び掛けると、船のそこかしこから確かな返答を感じた。
 十分後、集まった船の総員に告げた今日の会議の経緯を簡単に述べた後、今日一番の収穫を皆に告げる。すると、小さなざわめきが徐々に、しかし止めようもなく広がっていった。
 そもそも、ソルジャー・ブルーの遺体が今なお船内に存在することについては、その事実を知る者自体がごく少数であったのだ。ほとんどの者は、ソルジャー・ブルーは宇宙葬にされたと聞かされていたのだから、戸惑うのも仕方のないことだろう。
(どういうことなんだ?)
(そんなの初めて聞いたわ)
 事実を認識していくと同時に、だんだんと興奮してくる彼らをよそに、ソルジャーは視線を隣のハーレイへと向ける。
『後は君に任せよう。僕は彼へ報告に行く』
 そう言って彼は、集まる視線をすべて無視して、その場を後にした。
 ソルジャー・シンが一人向かったのは、人気がなく、普段から誰も足を踏み入れることのない場所だった。そこに、彼の人がいる。
 シュ、と開いたドアの向こう、光量の抑えられた広い部屋を迷いなく奥まで進んでいく。
 カツカツと、他に音源のない部屋に鳴り響く足音が止まる。その先にあるのは、透明な棺。
『ソルジャー・ブルー。やっと貴方をお連れできます』
『長い間、待たせてしまいました』
 深く一礼して、ソルジャー・シンは棺へとさらに歩み寄り、その真上へと手をかざした。シュン、と音を立てて棺の上部が開き、現れたのは花に飾られた懐かしい人。
 ナスカ以後、ここを訪れることを彼は自らに禁じていた。一つはナスカの戒め。いま一つは、地球へたどり着くまでの自分の甘えを断ち切るため。そうして今、地球へたどり着いた自分たちがいる。
『ようやく貴方に会うことができた――』
 伸ばした手の微かな震えが、自分はずっと彼に会いたかったのだということを何よりも雄弁に告げていた。
 頬に触れた指先から、冷凍状態に置かれ、自ら温度を作り出すことのできない彼の冷ややかさが伝わってくる。それでもこれは、彼の温度なのだ。それだけで胸に迫る想いをソルジャー・シン――ジョミーは感じた。
 さらに手を進めて頬を包み込み、自身の体をそこに寄せていく。
 彼と触れ合い、彼の切ない想いを感じた一時を思い出す。短い――とても短い一瞬の邂逅だった。けれどもそれで、自分の心は彼に強く縫い止められたのだ。
 物言わぬ彼の額にかかる髪の毛をかきわける。現れたすべらかな肌へ、ジョミーはかつてのように、静かにそっと口付けた。

 場所が決まったとキースより連絡があったのは、その翌日のことだ。





 話し合いの結果、ソルジャー・ブルーの体は三日後に地上へと運び出されることとなった。そして遺体の件が明らかになって以来、ソルジャー・ブルーに別れの挨拶をしにくる者がひっきりなしに彼のもとを訪れている。中でも彼と付き合いの長かった長老陣やフィシス、そして後継であるソルジャー・シンは、ない暇を無理矢理にでも作って足しげく通っているようだった。
 準備に追われるうちに日はあっというまに行き過ぎ、訪れた当日。
 晴れ渡った青々とした空の中、幾筋か引かれた白い雲の対比も目にまぶしく映る、気持ちのよい天気だ。空気を吸い込めば、新緑の香りがそのまま取り込まれるような美しい土地に、ミュウの船は降り立っていた。
 地上に足を置いた船の前方、その左手に見られるのは、キース・アニアンを始めとする地球側の人間たちだった。反対側には、大勢のミュウたちが立ち、そのときを待っていた。
 船のハッチが開く。外で待つ者たちは皆一斉に、緩んでいた姿勢を正した。中から現れたのは、大きな棺とその運び手たちだ。その後ろからはソルジャー・シン、そして長老たちと続く。彼らがすべて船から降りきったところで、棺は集まった人々の環の中央に置かれた。そこで初めて、透明な棺の中の人物の姿がはっきりと見える。ハッと息をのんだのは、地球の者たちだけではなくソルジャー・ブルーのことをほとんど知らないミュウの若者たちも同様だった。
 棺の中の人物は周囲の花ともども死しても衰えを知らぬような瑞々しい姿であり、その表情は、その場の重厚な空気を否が応でもかきたてる美しさだったからだ。
「本当に死んでいるのか…?」
 そんなことを、愚かしくも誰かが呟いてしまうほどに。
 静かな表情を浮かべたソルジャーは棺へ向かい、右手を胸に当てる。戸惑っていた者たちも、一様にそれにならった。棺に歩み寄ったソルジャー・シンがその上部を開ける。
 棺の中の人が焦がれつづけた地球の大気に、初めてその体がさらされた。
 感慨が胸を巡り、騒ぐ気持ちが彼の中に満ちていく。背後からは、長老やフィシスが彼を見守る視線を感じた。
 彼を返さなければいけない。彼の愛した地上へ、地球へ!
 返してしまえばもう会えない?そんなことはない。彼はいる、ずっと側に。
 けれど……
 彼を形づくる、彼を成していたものが行ってしまうのは心が引き裂かれそうに感じる。
 でも。
 行ってください。あなたは自由なのだ。もう何に縛られることはない。
 大気を吸い込み、触れ、感じて。支える一部となって。
 ここがあなたの地球なのだから!

 ふいに一陣の風が吹き抜けた。
「うわ!」
「なんだ?!」
 それは並び立った人々を偏りなき強さで吹き付け、一時彼らの目をくらませる。だからそれを見ることができたのは、普段視力をサイオンで補っている一部のミュウだけだった。
 一瞬、ソルジャー・ブルーの体が大きく揺らいだように彼らは感じた。すると次の瞬間には彼の体はもうそこには無く、確かに存在していたはずの場所からはきらめく細かな粒が風に乗ってサラサラと流れていく様子が伺えた。
 誰よりもはやく目を開けたキースはすぐにその事態に気付き、眉をピクリと動かした。
「何だ今の風は…」
「おい、見てみろ!棺の中身が――」
 彼より遅れて目を開けた者たちは、そこで遺体の消え去った棺を見てざわめき始めた。そしてその動揺はミュウを通じてあっというまに伝染していく。すべてを目にしたソルジャー・シンは、驚きは隠し通しながらも内心で思わず目を見張った。

 あなたなのですか?あなたが、自らそうして。
 とうとう還ってしまったのですね。
 出会ったときと同じだ。あなたは強引にさらっていく、何もかもを。そして鮮やかに散っていくのだ。ああ――これは本当に、何てあなたらしい。
 ――ブルー!!

 胸を締め付けるような声無き声が、すべての者の心を通り抜けていく。言葉では表現し尽せない切ない想いに、ざわめきは一瞬で静まった。

 彼は地となり風となり、地球に在り続けるのだろう。だから自分もここに在り続ける。
 側にいるのだ、ずっと。
 皆の視線が自分に集中しているのを感じながら、主なき棺の前に片膝を付く。中に敷かれた、長らく彼を包み込んでいた真っ白なシーツを片手でたぐり寄せ、今は存在意義のなくなったそれを顔に近付ける。目を閉じて息を吸い込むと、残された想いが隅々まで行き渡るようだった。そのまま、布に顔を埋めるようにして唇を落とす。





 もう地球を離れることはできないだろう、と予感じみた思いが胸に去来した。


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