置場
妄想文を思いつくままに書き散らしています。更新頻度は低めの予定です。
「地球へ・・・」ジョミブル
拍手のお礼文を加筆修正したものです――が、加筆部分が多くなったせいか以前のものとは大分別物かもしれません。そしてカタカタと打っているうちに、私はもしや手フェチなのだろうかと思えてきました。だって最後のくだりは書いててとても楽しかった…
おかげでジョミーがアレですがごめんなさい、変態は私です。ジョミーは悪くない。
不足成分
目が覚めた。少しの身じろぎすらも億劫な体を無理矢理に動かし横を向けば、ベッド脇に佇んでいたドクターと目が合う。驚いた様子の彼が様々な質問を浴びせかけてくるが、その声もそれに答える自分の微弱な思念も、膜を隔てて斜め上から見ているように現実感がない。まだ目が醒めきっていないのだ。
彼が言うには、自分はどうやら眠りについてから今までかなり間を開けてしまったらしい。もう少しで年単位になってしまうところでした、と嬉しそうに顔を輝かせる彼に思念を飛ばす。
『ノルディ、ハーレイたちを呼んできてくれないか』
目覚めてから初めて示した僕の積極的な意思にいっそう顔を輝かせながらも、ノルディは急ぎ足で部屋を後にした。
ふう、と息をつく。徐々に訪れた覚醒は鈍かった感覚を呼びさまし、遠かった意識が体のうちへと帰ってきた。長く動かすことがなかったおかげで軋むような体は、正直手に余る。目を開くだけのことでも維持するのは難しかった。
間を置かずやってきた長老たちを、ベッドに身体を沈めたままの体勢で出迎える。目は閉じてしまったが、目覚めたことによる自分の思念の変化を、彼らなら感じ取れているだろう。
「ソルジャー、無事お目覚めになられたようで何よりです」
「本当に」
嬉しげな声が耳に届く。
「ソルジャー・シンにはドクターが伝えに行ったところす。じきこちらに飛んで来ますよ」
ソルジャーと自然に呼ぶハーレイの言葉に安堵した。大分受け入れられているようだ。
『――邪魔をしてしまっただろうか』
「そんなことは、ソルジャー・ブルー。ソルジャー・シンはあなたのことをとても気にしておいででしたから、目覚めたとなればたいそう喜ぶことでしょう」
思念にすぐさま応じたゼルの声はいかにも機嫌が良さそうなもので、彼には珍しく相好を崩しているようだった。と、そこへ。
ヒュン、とやってきたのは、今正に話題となっていた人物だった。
「きゃっ」
「うわ――ソルジャー・シン?!」
彼はテレポートでベッドと長老たちの間を阻むような位置、とりわけエラとゼルとは衝突すれすれの距離に降り立ってしまったようだった。危険だと叱りつける彼らの言葉をすみません、と言いつつ軽く受け流す様が、彼の成長を表すようである。
「ソルジャー・ブルー!ああ、本当に目覚めたんですね!」
喜色満面といった様子のジョミーの心が流れ込んでくる。
「そうだよ。おはよう、と言うべきかな」
唇だけで微笑む。すると、ジョミーの微かな不満と焦燥が伝わってきた。何だろうと思っても、微かな思念はすぐに届かなくなる。少し見ぬ間に成長したものだ、と状況を踏まえず嬉しくなった。
そして、長老たちからはその場で意識が無かった間の出来事の報告が手短かに為された。
「――それでは、我々は失礼させていただきます」
『ああ、ありがとう』
ハーレイの言葉通り皆が出ていこうとする中で、ジョミーの気配だけは動かない。
「ソルジャー・シン?どうされました」
「……もう少し、ここにいてもいいかな」
ポツリと呟かれた言葉に、エラはとんでもないと表情を厳しくした。
「ソルジャー・ブルーはお目覚めになられたばかりでまだ本調子ではないのですよ。誰かいるだけで気疲れしてしまいます。さあ、行きましょう」
『構わないよ』
エラに返す言葉もないジョミーに代わっての助け舟のつもりで言った。
『僕も彼とは積もる話があるからね』
「けれど、ソルジャー」
尚も言葉をつのろうとする彼女を制し、
『ありがとう、エラ。でもそう心配しなくとも大丈夫だよ、僕は。何しろずっと休みを取っていたようなものだから』
そう言うと、エラは何か言いかけて口を閉じ、分かりましたとだけ言って皆と退出していった。
気を遣ったドクターも合わせて退出したため、部屋にはジョミーと自分の二人だけとなった。そうなると、静けさが耳に大きく響くように感じられる。と、ジョミーが口を開いた。
「…すみません、ブルー」
謝る彼の声はしおらしげで、シュンとうなだれているのだろう頭を撫でてやりたい衝動に駆られたが堪える。
『なぜ謝る?君は何も悪くないよ、ジョミー。言っただろう、僕も君と話がしたいんだ』
ジョミーの意識がパッと輝くのが、手に取るように感じられた。
部屋を出た後、ドクターと別れてブリッジへと向かう長老たちの中、一人うつむき加減に早足で歩くエラの肩が後ろから叩かれた。振り返ると、片手を掲げたオッドアイの女性が笑いながらエラの肩をさらにポンポンと叩いていく。
「何沈んだ顔してるんだい?ソルジャー・ブルーがお目覚めになっためでたい日だっていうのに」
「…ええ、すばらしいことだし、とても嬉しく思っているわ」
でも、と再び下を向いて小さく彼女は言った。
「私たちだって、ずっと待っていたのよ」
ほんの小さな呟きだったが、隣を歩くブラウにその言葉は間違いなく届いた。
「要するに、ソルジャー・シンにソルジャー・ブルーを取られたようで悔しいってわけかい」
「悔しいだなんて!私はただ――」
「ただ?」
「ソルジャー・ブルーと…あんなふうに二人でお話がしたかっただけよ」
やっぱり悔しいんじゃないかとからかうこともできたが、真摯な表情の呟きはブラウも含めその場の皆の心を代弁するものでもあったため、さすがの彼女も口をつぐむ。
「そうだな。――私も確かにそうだ」
だかしかし、そんなことをするには我々は分別を身に付けすぎてしまったな、と呟くヒルマンに同調した長老たちは、しばしの間沈黙した。
彼と話していると、彼の溢れるほどの旺盛な生命力に目を見張ることがしばしばだ。初めて言葉を交わしてから数年の時が流れたが、彼のそういうところは今も変わらずにこちらを楽しませてくれる。
「ブルー、苦しいんですか?」
コホ、と軽い咳をすると、ジョミーは不安げに尋ねてきた。
『平気だよ』
応じても、まだ心配そうな意識を感じるジョミーから、それ以外の微かな思念が漏れてくる。それは、先ほど彼と会ったときに感じたものと同じもののようだ。
非礼を承知で、集中して彼の思念へ意識を伸ばす。すると今度は簡単に、それは飛び込んできた。
――目を開けてはくれないんだろうか。
掴み取った思念に、なるほどと納得する。彼は不安だったのか。目を閉じたまま、会話もそのほとんどを思念で行われていることに。
理解すると、不満と焦燥の入り混じるその思念に途端に申し訳ない気持ちになる。意識のない状態とほとんど変わらぬこの状態に、ジョミーが不安をおぼえたとしてもそれは無理のないことだ。
「すまない、ジョミー」
準備無く発した声は小さく掠れていたが、それに彼が勢いよく反応する様子が見ずとも分かった。そしてベッドの背を起こしていき、向き合うにふさわしい角度で止める。苦心しながらまぶたに力を込めると、その重さに自分の生身の体を実感した。
呆れるほどゆっくりと、まぶたを開いていく。
「…やあ。おはよう、ジョミー」
開ききった瞳に写しこんだジョミーは、今にも泣き出しそうに顔を歪めている。
そんな顔をしないで――
思いを込めて、彼に手を伸ばし触れようとする。が、目覚めたばかりの体の動きはぎこちなく、彼に届くまで手は伸びきらない。と、その手をそっと捉えられ、握られた。
「おはようございます…ブルー」
声が吐息となって手にかかる。そのくすぐったさに身じろぐ間もなく、捉えられた手が彼の口元に持っていかれる。
そのまま、指先に口付けられた。
指先から唇を徐々に下ろしていき、たどりついた指の股をペロリと舐めると相手が微かな反応を示した。構わず今度は節を一つ一つ舌先でなぞっていく。第三関節の突き出た骨を口に含み、のばした舌で僅かな窪みも残さぬようくすぐった。
「ジョミー」
そこで初めて、為されるがままであった手の主――ブルーが声を上げる。
「いつまで続ける気だい?」
苦笑しながらも、彼が手を引っ込める気配はない。そのことに、深く安堵する。
「待ってください、…もう少し」
まだ放すことはできない。まだ、彼が許してくれるうちは。
そう考えてしまった自分の欲深さから今は目をそらして、手の中の彼の温度に意識を戻す。
薄い皮膚の張った手の甲に置いた唇を滑らせ、細やかな肌理に感じ入る。そしてその手を自身の両手で包み込むようにして裏返した。すると目に付いたのは、細い手首に浮き出た血管。
触れると、そこから確かな脈動が伝わってきた。そろそろと上へ移動し、柔らかなてのひらの中央のへこみへと唇を押し当てる。
目を閉じると、彼の温かさに包み込まれるようだった。
唇を、ほんの少し離す。ああ、やはり。
「あなたが足りないんだ」
吐息とともに囁くと、ブルーの手がピクリと動いた。
持った手を下ろして寝台のブルーを見れば、揺らがぬ瞳がこちらを見返していた。
前を向いて進む毅然としたその姿は誰よりも王者にふさわしく、まさしく生まれ落ちたときよりそれが決まっていたかのような、誰よりも王者たる彼。
片膝をつき、握った手の甲へと頭を垂れていく。
酔わせるのは、唇から感じるなめらかな皮膚の下に潜む、あなたの鼓動。